あみめの映画ぶろぐ

ポップコーンはキャラメルかバター醤油

ほぼコトリバコが主役だった映画『樹海村』(2021)

『樹海村』は、清水崇監督が手掛けるホラーシリーズ『恐怖の村シリーズ』の第ニ作目。2021年公開。

前作『犬鳴村』から約一年後に公開されたホラー映画である。

(※イメージ図)

 

『犬鳴村』がわりと地味な内容だったので、次作のこれもそんなもんかな、と思いつつハードル下げ目で鑑賞。結果、クソほどハマらなかった

ハマらなかったけれども感想と考察はしっかり記録していく。

 

 

映画『樹海村』とは

「自殺の名所」「磁場の影響でコンパスやGPSが狂う」「入ったら二度と出られない」といった怖いイメージのある富士の樹海。映画では、この樹海のどこかに呪われた村がある……という都市伝説が存在する。

調べてみると、実際の樹海にも『精進集落』と呼ばれる場所がある。が、劇中のような呪いの村ではないらしい。グーグルマップでは『精進湖民宿村』と表示され、富士五湖を目当てに訪れる人たちがよく宿泊するのだそう。富士山の間近だし、絶景であることは間違いない。

 

そしてなんと本作には、洒落怖でおなじみの特級呪物『コトリバコ』が登場する。

効果としてはネット上で見られるコトリバコの話と同じで、箱が置かれた家を呪うといった内容だが、箱が作られたエピソードに樹海村が関係しているというアレンジが加えられている。

 

あらすじ

「お姉ちゃん知ってる?この箱が置かれた家はね、みんな死んで家系が途絶えるの…」。

人々を戦慄させる禍々しい古くから伝わる強力な呪いを、歪な木々や地を這う根が生える、不気味で壮大な樹海の奥深くに封印した。

――13年後。姉妹の響と鳴の前に、あれが出現。

そして、樹海で行方不明者が続出する。

自ら向かったのか?それとも魔の力に吸い寄せられているのか?

恐怖が、いま再び解き放たれる。

公式サイトから引用)

 

分かるようで分からない、ネタバレに配慮した絶妙な公式イントロダクション。

キーワードは「13年後」。つまり13年前にあることが起きて、そこから時を経て今回コトリバコが主人公姉妹の前に出現した。13年前に何があったのか、箱の呪いとは何なのか……といった謎を追っていく話。

これだけ聞くと樹海関係なくない?と思うが、前述のとおり箱が作られた経緯に樹海村が関係してくるので、最終的には主人公たちも樹海を訪れることになる。

 

もっと簡単なあらすじ

わたし、天沢鳴!幼馴染2人が結婚したので引っ越しの手伝いに行ったら、新居の下に変な箱が置いてあったの。調べてみたら、コトリバコっていう呪いの箱みたい。まさかと思ったけど、その日を境に周りの人が次々に亡くなったり、樹海で失踪したり……もしかして本当に呪いのせい?

妹の響は昔からオカルト趣味で霊感アピールしてるけど、箱が出現してからはもっと様子がおかしくて。コトリバコっていったい何なの?どうして私たちの前に現れたの?この呪いからは逃れられないの……!?

 

***

鳴と響の姉妹が主人公という設定ではあるが、ストーリーの主軸となっているのは姉の鳴。妹の響は引きこもりの霊感気質で、口数少なく突飛な言動が目立つ。そんな妹の様子を、ただ構ってほしくて気を引こうとしているだけだと少し疎ましく思っている鳴。

そんな姉妹が、コトリバコと樹海村の恐怖に直面し、13年前の隠された真実を知る、というのが樹海村の物語である。

 

※以下ネタバレ注意※

 

 

相関図

図には記載したが、鳴と照が元恋人というのははっきりと言葉で表されたわけではない。

引っ越し作業中、照が結婚指輪の話をした流れで、持っていたタバコとライターを「返すよ」と鳴に渡した。このシーンは、以前もらったアイテムを相手に返す=関係性に終止符を打つ、という意味合いだろう。そして、今後父になるにあたり喫煙はやめる、という覚悟の表れでもある。

鳴はというと、未だに照との写真を部屋に飾っていることから、うっすら照に未練がありそうな雰囲気。というか照も照で、結婚指輪に対して「思いがこもってるっつーか、もう逃げらんねーな」と、新婚のはずなのに微妙な話し方をする。そして二人が仲良く引っ越し作業をしている様子を、妊娠中の美優が新居の窓から黙って見ているのである。

なんだこのドロッとした気持ち悪い関係性。しかも、鳴は未練をちらつかせながらも、現在は真二郎と付き合っている。なんだこの(以下略)

 

しかも驚くべきことに、このドロドロ四角関係は本編の展開とは何も関係がない。何の伏線にもならない。だから、鳴に未練があるとかないとか、そんなことは考察の対象にならない。

ただひとつ、ライターがちょっとしたキーアイテムにはなっているが、別にどうってことない要素である。

 

感想

樹海村っていうかコトリバコだった

なぜこの映画のタイトルは『樹海村』なのか。それは本作が『恐怖の村シリーズ』のひとつで、〇〇村タイトル縛りルールで制作されたからである。たぶんそれ以外に理由はない。

ではなぜコトリバコの話を混ぜたのか。それは前作『犬鳴村』と同じで、既にネットの都市伝説として広く知られた題材が登場した方が視聴者の興味を引くからである。

樹海×コトリバコで闇の相乗効果が得られれば良かったのだが、樹海と箱の二つの要素がごちゃごちゃになっているだけに感じた。むしろどちらかと言うとコトリバコのインパクトの方が強くて、タイトルがミスマッチに思われる。

 

シーンの繋ぎ方の雑さが気になる

樹海の話とコトリバコの話が交互に来るので分かりにくい上、その切り替わりが唐突すぎる部分もあった。

一番気になったのは、夜の寺~昼間の樹海~響が自宅で就寝する夜、の一連のシーン。それぞれの場面を切り抜き動画みたいにザクザク繋ぎ合わせているようにしか見えない。寺で寝泊まりした夜、幽霊まみれで怖い思いをした響が、直後のシーンでは何食わぬ顔で登山装備を整えて樹海オフ会に参加している。そして樹海でパニックになり、皆を置いて一人で森を走り去る。次のシーンでは自室で寝ている。時系列もよく分からない。

 

前作よりもグロ多め、印象的なホラーシーンも

物語の分かりにくさゆえに気が散ってしまい退屈すら感じていたが、印象に残るシーンもある。

たとえば、死産したはずの美優が赤ちゃんをあやすように何かを抱っこして、ふと我に返り腕の中を見ると、赤ちゃんではなくコトリバコを抱いていたシーン。ホラーでよくある、友達の手を握っていると思ったら幽霊の手を握っていた、という展開に近い王道的な恐怖演出だ。

他にも、普通に料理しているつもりが、気づかぬうちに包丁で自身の指を切り落とそうとしており、慌てて止血するシーン。無意識のうちに狂気に取り憑かれる怖さがあった。グロが苦手な人にはちょっとキツいかもしれない。

本作のホラーシーンは、前作『犬鳴村』と比べると直接的な傷や血の描写が多く、ややグロい場面もあるのが特徴と言える。

 

最後はダークファンタジー展開

いよいよ姉妹が樹海へと引きずり込まれる終盤、これまでのちょっとグロめなホラーシーンとは打って変わって、霊たちが文字通り森と一体化させようと襲いかかってくる。

海外ホラー風味というか、あぁそういうテイストかー、という感想だった。ある意味予想を裏切られる展開である。

 

裏テーマは「家族愛」

女の子特有のギスギス感がありながらも、ピンチの時には互いを守ろうとする絆で結ばれた鳴と響。そして、死後もなお娘たちを守ろうとする母の愛。

ホラーの中にもヒューマンドラマがあり、これらの自己犠牲的な愛に胸打たれた一部視聴者は「感動」「泣ける」と評しているようだ。ただしこれについては主題歌がHoneyWorksのため、エンドロールの間に不思議と謎の感動に包まれるせいでそう錯覚するだけかもしれない。

 

『犬鳴村』とリンクした演出

『犬鳴村』で臨床心理士の主人公が担当していた患者・遼太郎くんが、本作にもちらっと登場する。物語に直接関わるわけではないが、前作を視聴した人には分かるサプライズシーンだ。

他にも『恐怖の村シリーズ』のお約束展開として、「肝試し感覚で心霊スポットに行って死ぬ愚かな配信者」の概念的存在としてアッキーナと名乗る女の子が毎回登場し、冒頭で配信の様子が映る。キャストも同じというこだわりよう。

個人的には、そういうお楽しみ要素を入れるのは本編の完成度を高めた後でやるべきと思う。前作とリンクさせるのは良いがメリハリがなく、同じパターンじゃねーか!という突っ込み要素にしか感じなかった。

 

村シリーズを連続視聴するのは危険

じつは私が樹海村を観たのが、先に『犬鳴村』『牛首村』を観た後だった。設定的にも雰囲気的にも似たり寄ったりな内容が2時間近く続き、もはや集中力の限界だった。

休み休みでどうにか完走したが、感想らしい感想などすぐには思い浮かばず、同じ味を噛み続けたせいで最後には無味無臭に思えてくる感覚。合間に違うテイストの作品を挟めばまだマシだったかもしれない。シリーズ物なら一気に見るのが面白いだろう!と考えたのが間違いだった。

 

※以降激しいネタバレ注意※

 

 

映画を最後まで見終わっても、わからないところや納得できないところ……そんな点をQ&A方式で考察してみる。

 

自問自答Q&A

Q. 結局呪いの原因は樹海村なの?コトリバコなの?

A. 結論、どっちもである。コトリバコに近づいたことが原因で死んだ人もいれば、樹海に肝試しに行って死んだ人もいる。コトリバコの出どころは樹海村なので、広い意味では樹海村が呪いの原因と言える。

 

Q. 寺の住職が死んだのは、コトリバコの呪いじゃなくて響が放火したせいだよね?

A. そうです。(無慈悲)

響に言わせれば、恐ろしいコトリバコを手段選ばず排除しなくては、と思ったのかもしれないが、その行動の結果巻き添えを食らって死んだのが住職である。普通に犯罪。でも、住職は自分が死ぬことに関して「(コトリバコを)祓えなくてすまなかった」と発言しているため、今回の死の原因は響による犯罪というよりは、コトリバコが引き起こした呪いの弊害と考えているのかもしれない。

 

Q. 住職の奥さんが無傷なのは何故?

A. コトリバコのお祓いをしていた住職と違い、奥さんは箱と直接の関わりはなかった。そのため死を免れたと思われる。

 

Q. めちゃくちゃ樹海に関わってる樹海パトロールおじさんが無傷なのは何故?

A. おそらく樹海に行くだけでは死亡フラグは立たない。ある特定のルートを通ると樹海村への道が開き、樹海村入りすると死亡する。偶然にもそのルートを通ったアッキーナや視聴者軍団は村の一員となってしまったが、おじさんは何となくそのあたりのことも知っていて、回避していたのかもしれない。

 

Q. 病院の先生はコトリバコとも樹海とも直接関係なかったのに、どうして死んだの?

A. マジで分からない。指を切断された上で死亡したことから、コトリバコの呪いが理由ではある。響との関わりを通して、コトリバコにターゲットとしてロックオンされたのかもしれない。住職の奥さんは生存ルートなのに医者は死亡する理由、全然分からない。

 

Q. 主人公姉妹の母と祖母は登場したけど、父はいないの?

A. 祖母がいつも手を合わせている仏壇がちらっと映るシーンがあるが、それを見るに父親も亡くなっている。

ここからは考察になるが、父もコトリバコの呪いによって死亡したのではないかと私は考えている。

響と鳴が幼い頃、自宅倉庫でコトリバコを見つけた時、母は明らかにそれが何かを知っていた。コトリバコを過去に見たことがあり、それが引き起こす呪いも知っていたのだ。だからこそ姉妹を箱に触れさせず、二人を連れて箱を樹海に返しに行った。

もしかしたら、過去に同じことを父親も行ったのかもしれない。自宅でコトリバコを見つけ、樹海に戻しに行った帰りに命を落とし、母と娘たちだけが生き残った。時を経て、再び箱が出現。今度は母が樹海に行き、同じように帰り道で死亡。本編では姉妹が樹海に行き、妹の響が犠牲となった。

そしてエンドロール後、家庭を持った鳴のもとに、またも現れるコトリバコ。おそらく子孫が全滅するまでコトリバコに追いかけ回される無限ループが続くのだろう。

 

Q. 照と美優の引っ越し先にコトリバコが置いてあったのはなぜ?

A. ひとつ前のQ&Aで、鳴と響がコトリバコの呪いを親の代から受けていることを書いたが、そうなると分からない点がこれ。なぜ照と美優の新居の下からコトリバコが出てきたのか。

これはたぶん、「どこから出てきたか」よりも「誰の前に現れるのか」が鍵となっている。新居の下に箱が置いてあると最初に気づいたのは響。つまり箱は最初から響をターゲットにしていて、たまたまそれに響が気づいたのが引っ越し作業中だったと思われる。しかし、運悪く美優や照も箱に関わってしまったため、巻き込まれる形で呪いを受ける結果となった。

 

Q. どうしてコトリバコは姉妹たちを先代から呪い続けているの?

A. 洒落怖の知識が前提となるが、コトリバコは呪いたい相手の家にポンと置いておくだけで効果を発揮する特級呪物。つまり、コトリバコを作った樹海村の人々=迫害を受けて森に捨てられた人々が、呪いたい相手の家に箱を置いたことが始まりと考えられる。

ということは、姉妹の先祖は森に人々を捨てていた側なのではないか。迫害した者・迫害を受けた者の血族というのは『犬鳴村』でも扱われたテーマだが、樹海村も同じである可能性がある。

 

Q. 樹海村のバケモンたちは姉妹二人とも殺すことができそうだったのに、鳴だけ生き残らせたのは何故?

A. 何故だろうか。子孫を少しずつ生き残らせて、増えた分だけたくさん呪い殺すためかもしれない。数年後、鳴の娘の前に再度コトリバコが出現したことからまだ呪いは続いているようだし、樹海村の呪いというのは相当タチが悪いものと思われる。

 

おわりに

過去の忌まわしい風習から生まれた呪いの恐怖と描くと同時に、家族の絆を感じさせる映画『樹海村』。見どころもあるが突っ込みどころも多く、さらに『恐怖の村シリーズ』連続視聴によって精神が限界を迎えた。ド派手な海外ホラーを見て気分転換したい。