あみめの映画ぶろぐ

ポップコーンはキャラメルかバター醤油

呪われた血筋を辿る和製ホラー『犬鳴村』(2020)

『犬鳴村』は、清水崇監督が手掛ける『恐怖の村シリーズ』の第一作目。2020年公開。

恐怖の村シリーズとは、『○○村』というタイトル縛りで同監督により制作された三つのホラー映画作品の総称。

この後、『樹海村(2021)』『牛首村(2022)』と続いていくシリーズである。

(※イメージ図)

 

ジャパニーズホラーといえば有名なのは『リング』、そして『呪怨』。

今回の村シリーズを手掛ける清水崇は『呪怨』の監督でもある。

それはさぞかし怖かろう。観るの勇気いるなぁ……と思いきや、意外にもクソレビューが多かったので、じゃあ大丈夫か。と思い、アマプラで視聴した。

 

 

映画『犬鳴村』とは

福岡県に実在する有名な心霊スポット『旧犬鳴トンネル』や、都市伝説としての『犬鳴村』の話を題材として作られたのが本作。

作中の犬鳴村は『地図から消された村』として、やはり有名な心霊スポットという設定。『コノ先 日本国憲法 通用セズ』という文言は、犬鳴村の都市伝説の中にもある印象的なフレーズだが、作中でも看板が再現されている。

 

あらすじ

臨床心理士の森田奏の周りで突如、奇妙な出来事が起こり始める。

「わんこがねぇやに ふたしちゃろ~♪」

奇妙なわらべ歌を口ずさみ、おかしくなった女性、行方不明になった兄弟、そして繰り返される不可解な変死…。それらの共通点は心霊スポット【犬鳴トンネル】だった。

「トンネルを抜けた先に村があって、そこで××を見た…」

突然死した女性が死の直前に残したこの言葉は、一体どんな意味なのか?

全ての謎を突き止めるため、奏は犬鳴トンネルに向かう。しかしその先には、決して踏み込んではいけない、驚愕の真相があった…!

(公式サイトから引用)

 

どうだろうか。上記の公式あらすじで、どんな内容を想像しただろうか。

鑑賞後にこのあらすじを読むと、決して間違っているわけではないのだが、要約が上手すぎて実際の物語よりもずいぶんすっきりした印象になっている。

ということで、もう少し事実に基づいたあらすじを自分なりに以下にまとめた。

 

もっと簡単なあらすじ

わたし、森田奏!ちょっぴり霊感の強い臨床心理士!私の担当の患者に遼太郎くんっていう男の子がいるんだけど、彼につきまとっている女の霊がいつも視界をちらつくの。遼太郎くんは霊のことを「あっちのママ」とか言ってるし普通に不気味。担当変えてもらいたいな~。

そんな時、お兄ちゃんから電話が。『犬鳴トンネル』で明菜ちゃんと一緒に心霊動画撮ってたら、彼女がおかしくなっちゃったんだって。それで彼女、飛び降り自〇しちゃった。

その後も周りの人が次々に失踪したり死んだりするの。お母さんもヘンになるしお父さんは明らかに何か隠してるし、うちの家系ってもしかして犬鳴村と関係あるのかな……?

 

***

わかりやすさ重視で、嚙み砕きまくってまとめてみた。文章の内容がとっ散らかっていてぜんぜんまとまっていない、と思うかもしれないが、本編もとっ散らかった状態で進行するので、わりと現実に即した内容である。

 

ちなみに公式サイトのイントロダクションには、

古より続く血の祝祭からあなたは逃げられない

……という文言がある。が、作中では何の祭りも開催されないし、祭りという言葉すら出てこない。もしかしたら犬鳴村の呪いのことを祝祭と比喩的に言っているのかもしれないが……。

あえてこだわって祝祭という単語を使ったのは、犬鳴村とほぼ同時期に日本公開された映画『ミッドサマー』の影響があったのかもしれない。

 

※以下ネタバレ注意※

 

 

相関図

この物語は相関図がないと分かりにくい。というわけで、極力ポップに楽しそうなかんじで描いてみた。

f:id:Amime-MK:20240310205048j:image

上記の登場人物以外にも出てくる人はまだいるが、主人公の家系図に関係ないところまで書いていくときりがないし、どうせみんな死ぬので割愛した。

 

感想

物語の全体像が分かりにくい

率直な感想として、意外と地味で分かりにくい内容だった。

「犬鳴村の呪いの話」「主人公のルーツの話」「遼太郎くんと『あっちのママ』に関する話」がすべて同時進行されるので、何がどこまで説明されているのかが分かりにくい。そして、主人公のルーツは最終的にひいおばあちゃんの代まで遡るので、頭の中で家系図を整理するのがけっこう大変。

目の覚めるホラーシーンや引き込まれる何かが定期的に供給されれば集中できたかもしれないが、シンプルにホラー映画として地味、というのが視聴1回目の印象。

 

そう。じつは1回観ただけでは話を理解できず、翌日に2回目の視聴をした。しかも今度はきっちりメモを取りながら。

2回観てやっと話の全体像が分かってきて、人物相関図が完成してみると設定が理解できて面白さが見えてきた。でも理解した頃にはすっかり怖くなくなっている。てか最初から怖くはない。何なら予告映像が一番怖い。

 

分かりにくさの理由はもうひとつある。

「犬鳴村の呪い」と「主人公のルーツ」は最終的にひとつの流れとしてまとまっていくが、遼太郎くんの話はまた別のエピソードだ。これらの独立した二つのエピソードが交互に切り替わるので、より難解になっている。

そもそもだけど遼太郎くんの話って必要だったのか?なくても普通に物語として成立するし、むしろ余分な話はカットして主人公の血筋にだけフォーカスを当てても良かったのではと思う。

 

出てくる霊が全然怖くない

作品全体に言えることだが(むしろホラー映画全般によくある傾向かもしれないが)、実際に霊がガッツリ出てきてしまうと怖くない。チラ見えしている時の霊が一番怖くて、その後のシーンで全然怖くない霊の全身がばっちり映るので怖さが相殺される。

病院で大量の霊に追いかけられる時とかちょっと面白くなっちゃってたもん。幽霊みんなで大合唱しながら、競歩くらいの絶妙なスピードでズサササ!!!って追いかけてくる。何だこのシーンは。

 

監督のこだわりを感じられたシーンも

大人しい雰囲気の作品ではあるものの、監督の熱量を感じたシーンもあった。それが、明菜がおしっこ漏らしながら裸足でぺたぺた歩くシーン。普通に監督の性癖。むしろこれを撮るために犬鳴村を制作したのかもしれない(個人の感想)。ちなみにめっちゃ冒頭の場面なので、以降これを超える性癖シーンは無い。

 

個人的に好きなポイント

怖いシーンで好きなのは、明菜の霊が投身を繰り返す場面。鉄塔から飛び降りて、地面にぶつかるところで消滅し、一定時間経過すると再度飛び降りる。死の間際の一番痛くてつらい部分を永遠にループする印象的なシーンだった。

あとは、主人公が過去にタイムスリップして守り抜いた赤子が、じつは自分の祖母だった……というループ展開も良かった。ホラーとループものは相性抜群だと思っているので、そう繋がるのかー!という面白さがあった。

 

総評:想像よりだいぶ大人しい作品だった

呪怨の監督が制作した、有名な心霊スポットを舞台とした村ホラー” という、いかにも怖そうなキャッチコピーにビビりすぎたのかもしれない。すごくマイルドな1時間48分だった。体感めちゃくちゃ長かった。

 

※以下激しいネタバレ注意※

 

 

映画を最後まで見終わっても、わからないところや納得できないところ……そんな点を以下でQ&A形式をとって考察してみる。

 

自問自答Q&A

Q. 奏や兄弟は犬鳴村の血だけでなく、筑紫電力関係者の血も混ざっているけど、村の呪いの対象にはならないの?

A. たとえ電力会社関係者の子孫であっても、犬鳴村の血族であればステータスは上書きされ、呪いの対象からは外れると思われる。

冒頭、悠真と明菜が犬鳴村を訪れた際、明菜だけが呪いを受けて悠真が無事であったのも、悠真が犬鳴村の血族であったがゆえに呪いを回避したのが理由と考えられる。

 

Q. 悠真や康太が今後犬化する可能性はあるの?

A. 奏や母が犬化したのを見るに、他の兄弟も犬化する可能性がないとは言い切れない。ただ、奏は兄弟の中でも特に霊感が強く、犬鳴村の血が濃く出ていた。悠真や康太には奏のような霊感はないため、犬化しないまま普通に過ごしていくのかもしれない。

 

Q. そもそも奏の父は、どうして『犬殺しの血』を引く母と結婚したの?

A. 結婚当初は、母が犬鳴村の血筋であることを知らなかった。そのことは、劇中の「俺だって、知ってたら一緒になんか」という台詞から明らかである。なぜ母と結婚したか、考えられる理由はふたつ。

①たまたま恋愛結婚した相手が、よりにもよって相性最悪の家系だった。

②森田家の血筋の者は代々不審死してしまうため、子孫の不審死を回避すべく「犬鳴村の血と混ぜてしまおう」と考えた先代森田家の人が、お見合い等の方法で結婚を仕組んだ。

どちらも可能性としてあり得るが、偶然で片づけるよりは何か理由があったと考察したい。もしくは「そういう運命だった」という考え方もあるが、どちらの血筋にとっても絶対交わりたくない因縁の相手だったのに、ひとつの家系に繋がってしまったというのは皮肉な話である。

 

Q. 森田家でもなく、犬鳴村の血筋でもなく、犬鳴村に行ったわけでもない山野辺医師が死んだのが納得できないんだけど?

A. マジでそれ。理由を考えるならば、山野辺は犬鳴村の呪いの経緯を知る数少ない者の一人だった。そして、森田家の先代たちを検死し、溺死であると実際に見てきているのも山野辺ただ一人。犬鳴村の呪いに長期間関わってきたことから、呪いに巻き込まれた可能性がある。

ちなみに当の山野辺は、自分が呪われることに対してそこまで意外性を感じていたわけではない。むしろ当然のように「次はそろそろ我々かもしれない」と奏の父に話していた。何でだよ。「そろそろキミの番かもね」なら分かるけど、どうして森田家でもなく犬鳴村に行ったわけでもない自分まで死ぬって考えるんだよ。呪いの発動条件って何だよ。わかんねーよ。

 

Q. 犬鳴村の女性たちは、本当に犬と交わっていたの?

A. それに関しては「事実無根の侮辱的な噂を流された」という被害エピソードのひとつであって、実際そんなことはなかった説を推す。奏が過去へのタイムスリップ時、ひとつ屋根の下にいた犬と人間の女性、そして足元の赤ちゃんを見て「まさか……」みたいな雰囲気になっていたが、たとえフィクションの世界であっても犬と人間のあいだに子どもなんて出来るわけない。どう考えても健司との子どもである。

 

Q. 犬鳴村の犬がシェパードって世界観どうなってるの?

A. 世界観はぶっ壊れたけどかわいいのでOKです。

 

Q. 霊体という設定の成宮健司、実在しすぎてない?

A. この霊、カメラにはっきり映りすぎてるし服装も小綺麗だし顔色良いし、奏が普通に腕を掴める存在だし、初見では霊なのか実在の人物なのか意味不明だった。遠くでぼんやり立ってる時のコイツの白シャツが、洗濯洗剤のCMくらい真っ白すぎる。もうちょっと暗く映れ。

 

 

おわりに

派手に驚かせることもなく、日本ホラー特有のじわじわ感も薄く、設定も分かりにくい映画『犬鳴村』。だが、その分かりにくさを乗り越えた先で面白さを感じられる。突っ込みどころはあれど、主人公のルーツを辿るというのも王道的展開。以降続く村シリーズが気になってくる作品であった。

 

(この時の私は、以降続く二作品が本作とほぼ同じパターンで進行するクソだるい内容になっていることをまだ知らない――)