あみめの映画ぶろぐ

ポップコーンはキャラメルかバター醤油

激重妻に嫉妬されて眠れない『禁じられた遊び』(2023)

禁じられた遊びは、中田秀夫監督のジャパニーズホラー映画。2023年公開。

(イメージ図)

 

『リング』『仄暗い水の底から』など数多くのホラー作品を手掛けてきた監督の作品だが、ネットでの評価は何とも微妙。

面白いのか、面白くないのか?アマプラで視聴してみた。

 

 

映画『禁じられた遊び』とは

「リング」スマホを落としただけなのに」シリーズの中田秀夫監督が橋本環奈と重岡大毅ジャニーズWEST)を主演に迎え、作家・清水カルマのデビュー作である同名ホラー小説を映画化。

「貞子」「青くて痛くて脆い」の杉原憲明が脚本を担当。堀田真由、倉悠貴、長谷川忍(シソンヌ)、猪塚健太、MEGUMI清水ミチコ新納慎也らが共演し、怨霊となった美雪をファーストサマーウイカが特殊メイクを施して演じている。

映画.comより引用)

 

第4回「本のサナギ賞」大賞を受賞した清水カルマの人気ホラー小説が実写映画化。

中田秀夫が描く、原点回帰の新ジャパニーズホラー誕生!

東映HPより引用)

 

映画『禁じられた遊び』は、同名のホラー小説が原作。刊行前の原題は『リジェネレイション 闇の底に蠢くもの』。

小説版が受賞した『本のサナギ賞』というのは、2014年から始まった公募の文学賞で、現役書店員さんたちが選ぶ小説の新人賞。『禁じられた遊び』は第4回(2018年)の大賞受賞作品だ。

ちなみにこの賞、第5回は新型コロナウイルス感染症拡大のため審査中止となっており、現在は受付終了となっている。もうこれ以降の更新はないのだろうか。

 

あらすじ

トカゲは尻尾が切れてもまた生えてくる。ならば、切れた尻尾からトカゲは生まれるのか?

子どもの素朴な疑問に、父・伊原直人は冗談で嘘を教える。「秘密の呪文を唱えれば、尻尾からもトカゲは生まれる」そんな他愛もない嘘を信じた息子・春翔は、やがて人間の身体の一部を使って死者の蘇生を試みるようになる。

一方、伊原直人の元同僚・倉沢比呂子はある時期怪奇現象に悩まされていたが、転職してからは何事もなく充実した日々を送っていた。が、伊原と再会した途端に怪奇現象が再発。そして伊原と共に恐ろしい怪異の誕生を目の当たりにするのだった。

 

***

本編は、妻子持ちの男性・伊原直人(重岡大毅ジャニーズWEST)と、彼の元同僚・倉沢比呂子(橋本環奈)のダブル主人公。伊原と比呂子の視点が交互に切り替わり、終盤は二人で怪異と対峙する。

 

感想(ネタバレなし)

楽しく観られるジャパニーズコメディホラー

この作品をつまらなかったと評価する人は、“怖い” ジャパニーズホラーを期待していて、「何だよ全然怖くないしおふざけばっかりじゃん!」とガッカリしたのではないか。もちろんその期待は妥当だ。普通、こういった映画に観客が求めるものは非日常的な恐怖とスリルなのだから。

しかしそもそもこの映画は純粋なホラー映画には分類できないと思う。ストーリー的にもキャスト的にも明らかにコメディに寄っているのだ。恐怖を表現する橋本環奈の顔芸を見てほっこりする映画なのだ。

重苦しくて陰鬱なホラーと違って、疲れた日の夜でもサクッと観られる。友達同士で突っ込みながらわいわい観るにもちょうどよく、ホラーが苦手な友達がいたとしても怖さレベル☆1なのでまったく問題ない。この作品はそれくらいの期待値ならそこそこ面白いと感じられる。

ところどころ雑なポイントはあるが伏線はきちんと回収される。ホラー的面白さは弱いものの、酷評されるほどの退屈さは感じなかった。

でも劇場まで行ってお金払って観た人たちは怒っていいよ。

 

全体的に意外性のないストーリー

「普通に考えたらこうだよな」という観客側の予想をほとんど裏切ってこないストーリー展開で、良くも悪くも分かりやすい内容。複雑な考察をせずとも楽しめるエンタメ色の強い作品だった。

逆に言うと、ちょっとあらすじを読むだけでおおよその話の展開が分かってしまうので、上記のあらすじにはほとんど何も書けなかった。

 

ホラーなのにキラキラ顔面

ジャパニーズホラーと聞いて思い浮かぶような、じめじめとした陰鬱さや悲壮感は、この作品ではあまり感じられない。それは主演の二人から放たれるキラキラアイドルオーラによるものが大きい。

ちょっと怖いシーンでも、一緒に映っているのが橋本環奈の可愛らしいお顔なので、ホラー感は相殺されて消える。雰囲気ぶち壊しといえばまぁそうなのだが、リアルなホラーだと気分が悪くなりそうな人にとってはちょうどいい安定剤。

また、サブの登場人物たちもアニメっぽいテンプレ系のキャラで、そもそも演じている人がバラエティ番組でよく見るような親しみやすい俳優・芸能人が多く、かなりコメディ寄りになっている。公式サイトの役者コメントでほとんどの俳優さんが「明るい現場だった」「良い空気感だった」と答えているが、その明るさや和気あいあいとした雰囲気はしっかり映像にも反映されているように感じた。

 

グロシーンは少しだけ

(※微ネタバレを含みます※)

ホラー映画を見る前に不安なことといえばこれ。気持ち悪い映像はあるか?自分がそのグロに耐えうるか?である。

結論から言うとグロシーンはほとんどない。グロのピークは首の切断シーンだが、切断の瞬間は映っておらず、次のシーンで人間の生首が転がっているくらいである。まぁまぁCG感が強めなのであまり怖くない。

ポスターに映っている怪異が出てくるシーンはグロいのかというと、そんなことはない。怪異がちょっと怪我したり吹き飛ばされたりはするが、リアルで生々しいグロシーンは基本的にないので安心してほしい。

 

 

※以下ネタバレ注意※

 

相関図

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絵描くの面倒だったので文字だけの相関図で失礼します。

もし本作が伊原視点だったら、『アイドル級美少女の同僚にモテモテな俺、能力者のヤンデレ嫁に死ぬほど嫉妬されて修羅場です』みたいなタイトルになっていたかもしれない。

「嫁の愛が激重すぎて怖い。会社には笑顔が可愛い同僚女子がいて癒される」という直人。

「旦那さんとは恋愛関係になってないのに何故かものすごい殺意向けてくる奥さん怖すぎ」と言いながら、じつは彼から仄かな好意を向けられていた比呂子。

「夫の会社にいる女が夫に好意を寄せている。夫もちょっとその女のことが好きになっている。私には超能力でぜんぶわかる。許せない。生霊飛ばして絶対殺す」という美雪。

正直ろくな恋愛してるやつがいない。どいつもこいつもきしょい恋愛感覚。『禁じられた遊び』というホラーが始まる動機があまりにも昼ドラだった。

 

感想(ネタバレあり)

新たなホラーアイコンの誕生か

リングの貞子、呪怨加耶子のように、美雪という新しいホラーアイコンを作り出すという気合いを感じた。

美雪のキャラデザは女性らしい美しさに重点が置かれていて、ひとつの芸術作品のような印象。映画公式サイトにも素晴らしいビジュアルアートが多数載せられており、MIYUKIというキャラクターが愛をもって表現されていた。

幽霊や怪異というと、ドロドロの液体まみれの気持ち悪い見た目だったり、血でべとついた不潔な感じだったり、恐怖と共に不快感や嫌悪感と与えようとする傾向がある。対して本作の怪異は皮膚の表面にツタが這うような模様が浮かび上がり、美しい椿の花が描かれる。とてもクリーンだ。

ただ、それと引き換えに怖さはゼロ。ホラー映画には見た目の気持ち悪さがやはり必要なのだ。個人的に美雪というキャラクターは好きだが、怖さを楽しめたかどうかで言うと正直それはなかった。

 

ちなみに美雪のシーンで一番好きなのは、土から這い出てきた後、手近なところに斧が落ちているのを見つけて、ぱっと手にとって襲い掛かるシーン。家庭園芸用の小さな斧で威嚇するしょぼい感じが面白い。怪異だからといってべつに攻撃力が上がるわけではなく、普通に武器とか使うんだ……という親しみがあった。

 

ダブル主人公が両方とも嫌いなタイプだった

相関図の項目にも書いたが、主人公たちが普通に嫌いなタイプだった。

伊原直人は妻の束縛が怖すぎることを理由に、妻とは真逆の明るい同僚女子に癒しを求め出すというまぁまぁ気持ち悪いおじさんムーブをする。イケメンだから許されるというわけではない。

 

比呂子は可愛らしくも頼もしい性格だが、個人的には「夫(彼氏)の近くにいてほしくないサバサバ系美少女」という印象。

怪異となった美雪に攻撃しながら「私たちに構わないで!」と浮気相手の捨て台詞みたいな発言をしたり、伊原が美雪を抱きしめると「ダメです!」と二人を引き離したりする。ただでさえ嫉妬深い美雪に対して逆上させるような言動ばかりで、火に油を注ぎまくるのだ。

さらに、妻と息子を失う辛さを実質二度も経験し、最終的にメンブレしてしまった伊原には「そんなことをしても春翔くんは帰ってこない。しっかりしてください」と切り替えの早すぎる声かけをする。サバサバすぎて人の心ないんかと思う。

 

ところどころに見られる雑さ

まず登場人物のキャラ設定が全体的に雑(息子が古き良き時代のフィクション子どもすぎるとか、テンプレ通りのインチキ霊媒師とか)というのは置いておき、物語の流れを見ても処理が雑だな~と感じるところはいくつかあった。

死んだ美雪の指の先を、春翔が自宅に持ち帰ってきた冒頭のシーンがまずおかしい。事故の瞬間に吹き飛んだ母の指を咄嗟に持ってきたのだろうが、退院までの間に病院関係者が誰も気づかないのは無理がありすぎる。

伊原の現同僚である麻耶のスマホに、比呂子から電話がかかってくるシーンも相当に適当だ。比呂子が「伊原の住所を教えてほしい」と話し、麻耶は速攻OK。個人情報の取り扱いがガバガバすぎる。

細かい突っ込みにも思えるが、こういうちょっとした部分から作品のリアリティは崩れていくし、監督も脚本家も誰も変だと思わなかったんだな……という世間とのズレを感じて興ざめする。

 

怪異となった美雪に追いかけられるシーンも現実味がない。車で逃げようとするもエンジンがかからず、「ダメだ、行こう!」と車から降りて真っ暗な森の中へ入るのだが、たぶん私ならエンジンがかからなかったとしても車から出たくない。車にいられないとしたら、森ではなく街灯のある方へ逃げたい。

森の中、伊原と比呂子が逃げた先は古びた神社。普通なら怖すぎて絶対入りたくないお社の中で身を寄せ合いながら、「私が勝手に好きになったりしたから……」「いつの間にか俺はきみに惹かれていたんだ」などと告白大会が始まる。こいつらの精神状態は一体どうなっているんだと問いたい。この後、美雪がガチギレで殴り込んでくるが、こちらの心境としては早く美雪にこいつらをしばき倒してほしかった。

 

あとはわざわざ書くのもアレなのだが、CGが全部クソだった。べつにCGのクオリティに期待などしていないのだが、それにしてもクソCGだった。2023年の作品なのに。

 

ホラーならではの熱い場面も

私が本作で一番好きなのは、霊媒師・大門の付き人である黒崎のセルフ斬首シーン。悪霊に身体を乗っ取られそうになったところで、僅かに残った自我を精神力で保ちながら、己の人間性を守るために自害する。ゾンビ映画のような激熱シーンだった。

それ以外は特に好きなシーンはなかった。

 

泥棒猫

視聴した人がおそらく全員「ん?」と引っ掛かったであろう。比呂子に対する美雪の、「この泥棒猫が!」という台詞。決してコメディシーンではなく、この直後に実体を現した美雪が比呂子に襲いかかるという、序盤の怖い場面のひとつだ。

泥棒猫というワードに気をとられすぎて、その後の恐怖演出が何も入ってこなかった。調べたところ、原作にはこの台詞はないらしい。

 

掘り下げの余地はあるのに掘り下げない設定

本編残り15分のところで、美雪の家系に関する新情報が明かされる。彼女の亡き母親もまた超能力を持っており、その能力をもって新興宗教の教祖となっていた。美雪の家系の超能力は、親から子へと受け継がれるシステムなのだ。

いきなり出てきた “新興宗教” というワードはその後少しも掘り下げられることなく、約10分後にはもうエンドロールが流れている。

伊原と比呂子の両片想いエピソードよりも、美雪たちの暗い過去にフォーカスを当てた方がよほどホラーの雰囲気が出たのではないだろうか。美雪の母は信者に恨まれ自宅放火されて亡くなったという情報だけは知らされるが、そこに興味を持つ登場人物がいないのでこれ以上話は広がらない。新興宗教団体にいた、というたった一言で闇深い感じを演出して終わらせている。

 

超能力は継承される、ということで、じつはラスボスは美雪ではなく息子の春翔だった……という流れは良い伏線回収だったと思うし、普通に最後まで楽しめた。エンドロールで流れる、可愛らしい歌声とポップな曲調を聞きながら、まぁ掘り下げとか誰も求めてない映画だしいっか、と考えていた。

ちなみに主題歌タイトルは『えろいむ』。タイトル決めるのに2秒も考えてないでしょうね。

 

 

おわりに

ネットでは酷評の目立つ映画『禁じられた遊び』。ここまで色々書いたが、総評として気楽に見られるライトなホラーという意味ではそこそこ面白かった。

怖さレベルも話の難易度もすべてがライトで取っつきやすいし、橋本環奈をはじめとするキャストのおかげで退屈さも感じない。その代わり、怖かった~とか面白かった~という余韻は何も残らない。自宅のテレビでお菓子でも食べながらサクッと見て楽しむ映画だった。

 

美雪のファンアートです

美雪のビジュアル好きな人たくさんいると思うんだけどな。

作品評価が低いから必然的に認知されない不憫さ。もったいないキャラクターである。